ラブレター

場面4.ラブレター(婆さんの話) ― 川柳大賞 ―

「あたしゃ、この前、このページに川柳を20年間やっているって書き込んで、2句披露
したんじゃ。

そしたら、それからどこへ行っても“あんた川柳をやってるばあさんでしょ”って、言われる。
八百屋に行っても、魚屋に行っても、言われるのじゃ。ほんとに有名になったものじゃ。

ところで、この前、デイサービスに行ったら、あのじいさんに会ったぞい。わしの財産は
女房に全部やるってという遺言を書いとくっていう、遺言じいさんじゃ。

そのじいさん、あたしゃにも遺言を書けって言うんじゃ。“あたしゃには子供も孫もいるし、
みんな仲良く遺産分けするから心配ない”って言うと、“そんなことはわからん。いざと
なったら、人間、欲がでて変わるものじゃ。遺産争いが起らないうち、遺言を書いといた
ほうが安心じゃ”と、しきりにすすめるんじゃ。

それで根負けして、“あたしゃも、遺言を書くよ”って言ったら、じいさん、喜んでおった。
そして、“また会いたいのう”って言って帰って行ったよ。ほんとにいいじいさんじゃ。そこで、
一句できた。“遺言が 仲をとりもつ いい仲間”いい句じゃろう。

この前は惜しくも、“川柳大賞”を逃してしまったが、今度は大賞間違いなしじゃ。それじゃ、
もう一句。“じいさんと 2人で書くよ ラブレター”

これなどは、顔が赤くなるわい。ラブレターっていうのは、遺言のことじゃ。賢いあんた
たちには当然わかるわな。これで、大賞はあたしゃのものじゃ!」